異なるフィールドで活躍するそれぞれのプロフェッショナル道に直撃
侘美:そうなんですよ。授業の曜日が違うので。
裏谷:そうですね。はじめまして。
──裏谷先生はどのような学生時代を過ごしましたか?
裏谷:私は子供の頃からゲームが好きで、特にゲーム音楽に興味があったんです。高校の時に通ったパソコン教室に「コンピューター音楽」の授業があって、そこで初めてパソコンを使って自分で作曲するという経験をしました。
大学に入ってからは、将来はゲームの音楽を作る仕事がしたいと思いつつ、バンド活動に明け暮れていました。本格的にコンピューターでの作曲に取りかかったのは就職活動が始まるくらいの時期で、頑張ってMacを買い、打ち込みを1年間勉強したんです。そして、新卒でカプコンに入ることができました。
侘美:そんなトントン拍子に!?
裏谷:作曲家の新卒採用を久々にしていて、会社の業績も良かったのだと思います(笑)
侘美:ゲーム音楽の仕事って、最初は何から始めるんですか?
裏谷:まず研修が10ヶ月あり、フィルムスコアリング(※)の実習をたくさんやりました。あと耳コピもやったんですが、ショスタコーヴィチの複雑で長い曲だったりして、なかなか辛かったです(笑) その後、制作の現場に配属され、晴れてゲーム音楽の作家になれました。
(※)既存の映像に合わせて音楽を作っていくこと。
侘美:中学の時に吹奏楽部に入って、高校までユーフォニアムを吹いていました。当時YMOが好きで、それに憧れて自分も作曲したかったんですが、住んでいた所が地方で、作曲を教えてくれる先生がいなかったんです。ならば音楽大学に進学してみれば?と言われ、入学しました。
裏谷:大学の専攻は作曲だったんですか?
侘美:管楽器の専攻でした。ですが、楽器はほぼ吹かずに、和声の授業の担当教員だった川辺真先生(芸名は風戸慎介)にお世話になり、作曲をみていただいていました。そうしているうちに、演劇の劇伴の仕事が来たんです。それが自分にとって初めての作曲仕事となりました。
裏谷:初めて自分に依頼が来た時って嬉しいですよね。
侘美:その時、やっと作曲家としてスタートラインに立てた気がしました。
──裏谷先生は、あの「モンスターハンター」の音楽を作曲されたのですよね。
裏谷:はい。研修が終わると、モンハンのチームに配属されました。自分が希望を出したのではなく、作風などから判断をされたようです。
侘美:ゲーム音楽を作る上で、大切にしていることはありますか?
裏谷:ゲーム音楽は、ゲームとの一致感が大事だと思います。「なぜここに音楽が必要なのか?」という所から納得できなければ、ゲームのコンセプトとずれてしまいますから。自分にとってゲーム音楽は、ゲームのコンセプトをより尖らせるためにあると思っています。
侘美:なるほど。
裏谷:曲を作る時、慣れてくるとつい同じ事を繰り返してしまうんですが、そこに何か一つチャレンジを入れて、うまく行った時はとても嬉しいですね。
──侘美先生は、大学卒業後のお仕事は作曲をメインにされてきたのですか?
侘美:はい、演劇や映画の作曲仕事をメインでやりつつ、楽譜浄書の仕事を並行してやっていました。
裏谷:「楽譜浄書」は聞き馴染みのない人も多そうですね。
侘美:本などに掲載するような楽譜の版下を作ったり、作曲家の先生が書いてきたスコアを、各楽器で演奏できるようにパート譜に起こしていく仕事です。言わば、楽譜の清書ですね。
裏谷:なかなか難しそうな気がしますが…
侘美:元が手書きの譜面だと、読みにくいこともあるんです。そういう場合は、辻褄が合うように忖度することもありますし、締め切りギリギリに譜面が送られてきて、徹夜をして浄書を完成させたことも数多いですね……(遠い目)
裏谷:うわ、大変そう!
──様々なご経験をしながら音楽業界で活躍されてきたお二人ですが、それぞれご自身の「強み」は何だと思いますか?
裏谷:自分の視点で作品と向き合い、曲のコンセプトをしっかりと決めて、地道に作業を進められるところだと思います。
侘美:納期を落とさないことです!(キッパリ)
──クリエーション専攻での先生のご担当を教えて下さい。
裏谷:4年生の「卒業作品研究」を担当しています。一人一人課題が違うので、その人に合った関わりをするよう心がけています。自分で考えて、技術を獲得して欲しいのであえて理論的なことはあまり言わないようにしています。
侘美:3・4年生を対象に「フィルム・スコアリング」の授業を担当しています。ドラマや映画などに音楽をつけることによって、映像の印象がどう変わるかを実践形式で教えていきます。
──クリエーション専攻の魅力って、どの辺にあるでしょうか?
裏谷:音楽のみならず、様々な事が学べるところですね。例えば「プロフェッショナル研究」では、音楽に限らず業界の第一線で活躍するゲスト講師を招いた講義があったり、「ライフ・プロデュース論」ではビジネスの基礎や起業、税について学んだり。
侘美:「ライフ・プロデュース論」は、私自身も学生時代に知っておきたかった内容ばかりです。
裏谷:入学する時はプロの作曲家になりたいと思っていても、4年間で気持ちが変わることもあります。そんな時でも、クリエーション専攻なら将来の様々な可能性を広くフォローしてくれると思います。
侘美:他には、機材や楽器が贅沢に揃っていることですね。MacBook Proは一人一台支給され、ギターやベースはもちろん、RhodesやWurlitzerなどの貴重な楽器も充実していて、自由に演奏が可能です。
裏谷:絶対に作曲を極めるぞ、という学生だけではなく、音楽の仕事を幅広く教えることができる柔軟性がありますよね。
侘美:あと、先生方が現役のミュージシャンだったりするので、最新の現場事情が知れる点も大きいと思います。
裏谷:他にはなかなか、こんな音大は無いですよね。
侘美:無いですね。私が現役だったら入りたかったです(笑)
──クリエーション専攻の学生達に身に付けて欲しいことは、どんなことでしょう?
裏谷:これは音楽に限らないのですが、自分の頭で考える力を身に付けて欲しいですね。先生から一方的に教えてもらうだけだと、どうしても受け身になってしまいます。ですので、先生が言ったことでも一度疑ってみてほしいです。自分で考えることは、音楽だけでなくこれから社会で生きていく上で役に立つと思いますよ。
侘美:好きな事って、誰かに言われなくてもやるじゃないですか。でも大学というのは、今まで自分と縁がなかったことにも触れられるんです。だから、積極的に色んな経験をして欲しいし、大学をそのように使って欲しいと思います。
──それでは最後に、クリエーション専攻を目指している学生へメッセージをお願いします。
裏谷:絶対に音楽で行くぞ!という意気込みは、時に視野を狭めてしまいます。自分が興味や関心が無いことでも、切り捨てるのではなくあえてやってみる。そうすると何かに気づき、最終的に音楽に活かせることもあります。ですから、色々な事に興味を持って、広い視野を持つようにして欲しいと思います。
侘美:コロナ禍で人と会わなくなって、人間関係が希薄になったり、人付き合いをコスパで判断するような人も出てきたとニュースで見ました。でも、人間がやっていることは、全て人との縁があってのもの。だから、大学で色んな人に会ってほしいと思います。
──ありがとうございました!
取材・文・写真:BUBBLE-B
株式会社カプコンにてモンスターハンターシリーズの楽曲を数多く手掛け、2019年に独立しREI MUSICを創業。モンスターハンターシリーズのサウンドディレクション経験から作品のコンセプト設計やサウンドの世界観構築プロデュースを得意としている。
北海道帯広市生まれ。武蔵野音楽大学卒業。楽曲提供は、陸上自衛隊音楽隊の委嘱作品、国民体育大会や音楽ホール開館記念のファンファーレ、テレビドラマ、劇場上映映画のサウンドトラックから、演劇舞台のための音楽、こどものためのオペレッタまで多岐にわたる。
株式会社 H-t studio代表取締役、北海道作曲家協会理事、一般社団法人日本作曲家協議会(JFC)会員、日本音楽著作権協会(JASRAC) 正会員。