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Vol.2 自分の時計 (2016/11/29)




9月22日、バスケットボールのBJリーグが開幕した。野球、サッカーに続く、プロバスケットボール・リーグの誕生である。
私はバスケットボールの選手だった。中学校では東京都準優勝。高校は神奈川県優勝で、インターハイにも出場した。この経歴を披露すると、皆、一様に驚く。無理もない。何しろ、私の身長は165センチ弱。

バスケットボールの苦い思い出を語る。
高校2年生の夏。新たなシーズンの始まり。我々はインターハイ優勝を目指し、練習をスタートした。練習試合、公式戦を次々とこなしていく。だが、私は試合に出場こそするが、一向にスターティング・メンバーになれなかった。自分の未熟のせいなのだが、当時はそれを認めず、内心ふてくされた。特定の人に不満を持ち、嫉妬した。そして皆に「上手い」ところを見せつけようと、派手なプレイを追い求めた。結果は行き当たりバッタリのプレイが多くなっただけだった。
私は自分がスターティング・メンバーに選ばれない理由を突き詰めず、チームにとって己が為すべきことを考えるのを怠り、「自分のためにだけ」練習していたのである。私が本当に目指すべきは「基本に忠実で堅実なプレイ」だったのに…。
そして3年生の夏。インターハイ3回戦。私はいつものように途中出場したが、チームは敗れた。敗退の要因がチームの一員である自分にもあることは明らかだった。試合終了後、私は一人で体育館の外に出て、「自分で自分の成長を止めてしまった」1年を振り返り、悔いた…。

3年後、私は舞台俳優を志し、劇団の研究所に入り、演劇人生が始まった。
同期生と比べ、素質・才能に乏しいことは一目瞭然。その頃、劇団の代表から投げかけられた言葉が私の一生の戒めとなった。「自分の時計だけを見ろ。他人の時計を見るな」。私はバスケットでの失敗を二度と繰り返すまいと必死だった。劇団が求める技術を身につけ、作品に貢献できる俳優になること。絶えず「お前は下手なんだ。カッコつけず、上手く見せようなどと決して思うな。地道に一段一段昇っていき、堅実な演技をしろ」と言い聞かせ、先に行く同期生や後輩と比べて焦る自分を戒め、レッスンと稽古に明け暮れた。「めげず、あきらめず、たゆまず」。
以来、40年間、曲がりなりにも演劇・ミュージカルの世界で生きてこられた。劇団時代は俳優として舞台に立ちながら、演技指導の仕事を早くから任せられ、その後、演出助手もこなした。さらに脚本を書かせてもらい、組織運営の一端も担った。
そうして「今」がある。私より素質や才能に恵まれた人間はたくさんいたが、その多くが様々な事情でこの世界を去っていった。私が残ることが出来たのは、力があったからではない。運が良かったのである。そうとしか言いようがない。出会いに恵まれ、機会に恵まれ、人と比べることなく自分の時計だけを見てきた40年…。もう少し働いてみよう。齢60を超えて、改めて決心する今日この頃である。