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第6回 「言葉に感情を込めるのではなく(台詞とは?)」


「台詞にもっと感情を込めて!」。演技指導でよく聞かれる言葉である。

だが、言葉そのものに感情はない。言葉は論理である。
例題を出そう。
あなたが実際に喜んでいることを「あ」と「お」の2音だけで他者に伝えてみよう。
言葉を言ってはいけない。あくまでも2音だけで喜びを伝えるのだ。
あなたが本当に喜んでいれば、他者には「あなたが喜んでいる」ことが伝わる。あなたから発せられる「あ」と「お」の2音だけで「喜び」が伝わっているのだ。このことは「あ」と「お」と発音する「息」が「喜び」の感情を表現していることを意味する。

結論。あなたの身体に充満している感情は「息」によって伝わる。
――― 表現は息である ―――

しかし、他者はあなたが「なんで喜んでいる」のかは分からない。喜びの理由が分からないのである。そこで今度は、先ほど発した「あ」と「お」の「息」に言葉を乗せる。「宝くじが3千円当たった」「推しの彼に思いが伝わった」「大好きなケーキが食べられた」等々。

結論。言葉によって喜びの感情の原因・理由が分かるのである。
――― 言葉は論理である ―――

台詞を言うとは、(1)身体の内に感情や衝動が充満し、(2)その感情や衝動が起こった結果、伝えたいことを言葉で表現することである。言葉を発した時点ですでに身体には何らかの事情(他の登場人物たちとの交流や、自分を取り巻く状況の変化等々)で感情や衝動が宿っている。それらがキープされたまま、伝えたいことを言葉に出す。それが台詞である。

だから台詞を言いながら改めて感情を込めると「こんな感情になっているんです」という「説明台詞」になり、「生きた台詞」とならない。そして大抵は力(りき)む。喉に力が入るのである。困ったことにこの「説明台詞」のほうが、俳優は「自分が演ずる登場人物の気持ちを表現している」と勘違いしてしまうことが多い。

台詞に感情を込めようとしてはいけない。台本に書かれている台詞そのものは感情ではないのである。
では、台詞とは何なのか?