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第5回 「想像力②」


想像力が「無」から生まれるものだと私は考えていない。なにか元になるものがあるはずだ。
例を挙げよう。「あなたは宇宙飛行士になって月着陸を果たした。さあ、月面を歩いてくれ」。
この要求に応えてあなたはどんな風に歩く? ゆっくりスローモーションのように歩くだろう。でもあなたは月に行ったことがあるのか? ない。それなのになぜスローモーションで歩くのか? 答えは月の重力が地球の6分の1ほどであることを知っているから。または実際に宇宙飛行士が月面を歩く映像を見たことがあるから。この想像力は知的アプローチから生まれる。追体験である。
もちろん、全く知らない星を歩くのを演じるとしても、知的アプローチによる「重力の存在」が参考となるはずだ。それが正しいかどうかは問題ではない。「重力の存在」という「追体験による知的アプローチ」が演技のヒントになっていることが重要なのである。

前回、「時が来たら、心の貯金箱から取り出す」と言ったが、実際には取り出すまでそれが貯金箱に入っていたことすら覚えていない。体験も追体験もそれらを即演技に役立てようなどとは思っていないからだ。無意識に心の貯金箱に納められていたというのが事実であろう。不断の努力により想像力の源を蓄えておくことが大切なのである。

本を読もう。映画を見よう。音楽を聴こう。美術を鑑賞しよう。人間をよく見よう。好奇心を持とう。思索しよう。――俳優をやるなら。