グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



  1. Home
  2.  >  News
  3.  >  〈レビュー〉第3回NEXT DESIGN ~作曲デザイン・コース・コンサート~

〈レビュー〉第3回NEXT DESIGN ~作曲デザイン・コース・コンサート~


\ Let's share! /

研究生によるレビュー

〈大阪音楽大学大学院を修了後、専門分野を研究し続けている「研究生」。本記事では研究生が観覧したコンサートレビューをお届けします〉

大阪音楽大学短期大学部 作曲デザイン・コースは、それまでの作曲や電子オルガンなどのコースを継承しつつ実践に即した作曲を学ぶ場として、2020年度に開設された。その一年間の集大成として披露されるコンサート、第3回「NEXT DESIGN」が昨年末の12月22日に開催された。フライヤーには「マクベスの亡霊」と大書してあるだけで、一体どういったコンサートが繰り広げられるのか見当もつかないまま、ザ・カレッジ・オペラハウスへと足を運んだ。

開演と同時に暗転し、背景のスクリーンにプロジェクターで映し出されたのは、まるでドラマ『半沢直樹』のような世界観の登場人物の名前と肩書き紹介。どうやら近未来の日本を舞台に企業内での抗争を題材にした劇とその劇伴としての音楽を楽しむコンサートだと察しがついた。キャストはいずれも学生ではなく外部のプロ。普段は声楽のオペラやオペレッタなどが多いこのオペラハウスでの演劇は新鮮だった。

脚本・演出も担当した谷内洋二が演じたのは「幕田」というサラリーマン。相手役の藤田信宏演じる「坂東」とともに企業でのし上がっていく……というのが第一幕の筋書き。もちろん、シェークスピアの四大悲劇のひとつ『マクベス』の登場人物「マクベス」と「バンクォー」のもじり。『マクベス』では「コーダーの領主」というところが、前任者の名前がコウダという九州支社長の地位に置き換えられていたり、「侘び寂び」の思考をプログラムに取り入れたという最新AIの名前が「WBSB2030」だったりと思わずニヤリとさせられる部分も。

音楽は、舞台上には電子オルガンが3台とグランド・ピアノが置いてあったが、そのいずれにも奏者が常駐するわけではなく、そこに加わるギターとサックスの奏者も含め、曲によって入れ替わり出入りするかたち。生音だけの音楽もあれば、打ち込みと生音の同時演奏の曲や、打ち込みだけの音楽もあったが、そのどれもが違和感なく劇のシーンに合っていた。

後半も『マクベス』の本歌取りで筋書きは進行するのかと思いきや、第二幕ではその構造に気付いた幕田が「マクベスの亡霊」に言及するところから物語は『マクベス』とは違った展開を見せ始める。観ている側の『マクベス』のような悲劇的な結末への予想は裏切られハッピーエンドで劇は終わる。『マクベス』の亡霊に取り憑かれていたのは観客のほうだったのかもしれない。

パーティ会場で優雅なダンスが繰り広げられる「歓喜の祝宴」シーン

舞台が明転してからカーテンコールで舞台に整列したのは作曲デザインコースの学生たち。これだけクオリティの高い舞台劇に対して、劇伴でどう向き合うかというのはまさしく実践的な学びだろう。惜しむらくは劇の演出の都合上か照明が暗く、パンフレットに記載してあった1曲1曲のタイトルや作曲を担当した学生のクレジットが読めなかったことだ。これは!と思う曲はたくさんあったので、名前を記憶しておきたかった。
筆者は作曲デザイン・コースがどういったものか今回初めて触れたが、改めて大阪音楽大学で学べる音楽の裾野の広さに驚かされた。作曲デザイン・コース教育主任の森本友紀教授は来年度より学長を務めることになっている。伝統と革新を含んだこれからの大学にも期待したい。
Text / 坂井威文(大阪音楽大学研究生)
Photo /(有)サンクスリソース