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〈レビュー〉DAIONミュージカル第13回公演「空の向こうの物語」


ゾルデに操られたマンチキンの人々とうずくまるブリキ、ライオン、カカシ

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研究生によるレビュー
〈大阪音楽大学大学院を修了後、専門分野を研究し続けている「研究生」。本記事では研究生が観覧したコンサートレビューをお届けします〉

先日、このWebマガジンMUSEに掲載された羽鳥三実広特別教授のインタビューは、先生の来し方や教育観が窺える貴重な記事だった。先生がこれまでに得た経験を活かしながら制作するからこそ、DAIONミュージカルで上演される演目は学生たちにとっても観客にとっても「楽しかった」だけで終わらせない心に残るものであることを感じさせた。今回は、羽鳥先生が脚本・作詞・演出を手掛けたDAIONミュージカル第13回公演「空の向こうの物語」をレビューする。(2024年3月9日A組公演を鑑賞)

舞台写真に見入る来場者

ザ・カレッジ・オペラハウスのロビーではこれまでミュージカル・コースが手掛けた演目のパネル展示が行なわれており、舞台写真とあらすじをさっと眺めただけでもワクワクして過去の舞台が気になるような仕掛けだった。また、アーティストのライブさながらに物販コーナーも設けられているのが良い意味でオペラハウスらしくなく、雰囲気の違いを楽しんだ。
今回の演目「空の向こうの物語」は第7回公演(2017年度)の再演ではあるが、「プロットの変更やナンバーの追加もあり、新作同様」(DAIONミュージカルYouTubeの動画概要欄から)とのことだ。

あらすじ

天上界で自らが望まない生を受けた天使・フルーティー。魔女学校で「南の魔女」になる教育を受ける中、級友たちからの「いじめ」に耐え切れず、悪魔との取引で「邪悪な強い力」を得る。名を「ゾルデ」と改めた彼女は、やがて下界の民たちを支配する存在に。一方、地上界で、亡き母親と同じ「ファッションデザイナー」の道に進もうとする真奈実。就職活動が上手く行かず、故郷に戻った彼女は嵐に見舞われ、愛犬トートと共にゾルデの支配する不思議な世界へ吹き飛ばされてしまう。生きる場所を求めるゾルデと真奈実、二人の闘いが始まろうとしていた。

パンフレットによると、2023年度ミュージカル・コースの学生は1年生が2年生の倍程度在籍しているいるようで、天上界でも地上界でも「天使の子」「女高生」といった役が豊富にいたことで場面ごとの設定がすんなりと入ってきた。また、それらを演じる学生もきちんとその役に向き合っていたことで、リアリティを増していた。天上界でも地上界でもいじめのシーンがあるのだが、その場面の演技は特に真に迫っていて観ていて心が痛いほどだった。
二つの世界は嵐がきっかけでつながり、ストーリーが展開していく。嵐の直前に〈虹の彼方に(Over the Rainbow)〉が演奏されることで、『オズの魔法使い』や『ウィキッド』の世界観ということがようやく理解できた。ちなみに、この演目の音楽のほとんどはクラシック音楽に詞を乗せたもの。元ネタがパンフレットに掲載されていたのはありがたかった。

左からトート、真奈実(庄司笹)、背景にブリキ、カカシ、ライオン

真奈実は、ライオン・ブリキ・カカシといった『オズの魔法使い』でお馴染みの面々を従えながら悪の魔女となったゾルデのもとへ向かう。その途中で出てくる「アワテンボー・オコリンボー」や「オデン三人衆」といったコメディリリーフもおもしろく、客席からは笑い声も漏れていた。

左からトート、カカシ、ブリキ、ライオン

時折出てくる群舞のシーンなどではきちんと踊りながらも、息が乱れず歌う技術力に感心したし、打ち込みの音源に合わせてタイミングを揃えるといったクラシック系とはまた違ったアンサンブルは個人的に興味深かった。

縫製工場で働かされるマンチキンの人々

真奈実とゾルデが邂逅すると、モティーフだった真奈実の「服づくり」が結末のスパイスとして効いてくる。衣装で驚く演出があり、一瞬のうちに早着替えする仕掛けが見事だった。ファッションをテーマにした舞台だからこその仕掛けなのだろう。単純なハッピーエンドではなく、真奈実にもこの先への気付きがあるという物語の続きが気になる終わり方が良かった。

ゾルデ(麻生麗奈)と親衛隊

ゾルデ(津田愛子)とマンチキンの人々

キャストでは、やはりゾルデ役の津田愛子(短大専攻科)と真奈実役の春日咲彩(2年)のダブル主人公が良かった。しっかりと物語を牽引していたし、特に前者のソロナンバー〈私の生きる場所〉の絶唱には思わず拍手。
学生ではないが、パンフレットに挨拶文を寄せている教育主任の松田ひろ子教授がマダム・オズとして登場したシーンはやはり先生の独壇場。先生と学生が一緒の舞台に立つことによって先生の背中から学べることはまだまだ多そうで、ミュージカル・コースの良き文化のように思えた。
今回筆者が観劇したのは初日のA組公演だったが、C組まである他の公演と見比べても楽しさを見出せたと思うし、2回あるA組の公演が初日を経てどういうふうに進化するのかといった楽しみ方もあるかもしれない。年に一度だけのDAIONミュージカルの世界はこれからも楽しみだ。
Text / 坂井威文(大阪音楽大学研究生)
Photo / 齋藤遥
※記載の学年は2023年度当時のものです。

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