〈レポート〉『紡ぎだされる記憶 -アンドロイド物語-』(ミュージカル・コース DAIONミュージカル 第12回公演)
3月11日(土)から3月13日(月)の3日間に渡り、全5公演が上演された『紡ぎだされる記憶 ―アンドロイド物語ー』。羽鳥三実広教授による完全オリジナルの新作で、ミュージカル・コースの在学生(1年・2年・専攻科生)をはじめ、教員や助演が出演し、プロさながらの本格的な公演となりました。今回のレポートでは、物語を10のシーンに分けて振り返ります。
*本レポートは、物語のネタバレを含みます。ストリーミング配信を視聴される方は、ご了承の上お読みください。
あらすじ
「地球は人類だけのものではない」という大きなテーマが敷かれた本作は、人間とアンドロイドが共存する世界が舞台。個性豊かなキャラクターたちによってストーリーが展開されます。
近未来。世界を二分する南北両陣営それぞれの「戦略発動ボタン」をロックしたラシード博士。彼はロックを解除するパスワードを明かすことを拒否し、命を落とす。一方、終身刑で服役中のドップラー博士(ラシード博士の親友)は突然釈放され、亡くなった愛娘・アリスのヒト型アンドロイド製作を国家によって命じられる。それは「戦略発動ボタン」のロックを解除するパスワードを突き止めるためだった。 人工知能にラシード博士の記憶を移植されたアリスの言動から、パスワードを突き止めるミッションが始まる。ミッションが成功しなければ、アリスは解体され、ドップラーも刑務所に逆戻り。自分がアンドロイドとは知らずに高校の教師となり、生徒らと共に大地震後の被災地でボランティア活動に参加するアリス。やがて彼女たちは復興支援コンサートにも出演することに。果たしてドップラー博士は親友・ラシード博士が命をかけて守ったパスワードを突き止め、戦略発動ボタンのロックを解除するのか——。 |
第1幕(シーン1~6)
シーン1〈ドップラーの過去〉
序盤、アリスとの回想シーン。進路をめぐり、亡き母の形見であるピアノを父親ドップラーに処分され、心に大きな傷を負ったアリス。彼女はナンバー「ママ、ママ」で悲痛な叫びをあげます。耳に、そして心に突き刺さるような悲劇的な歌唱が、重く暗い雰囲気を漂わせました。
アリスはこの後、宇宙飛行士になるためのトレーニング中に倒れてしまいます。ドップラーは亡くなったアリスのアンドロイドを製作しますが、このことが国家倫理委員会の知るところとなり、終身刑となったのでした。
シーン2〈ユニバーサル学園〉
問題児ばかりを集めたユニバーサル学園の“フリークラス”。教育主任は強烈なキャラクターを持つマダム・デルタ。彼女は、コワモテとムーミーという、こちらもキャラクターの濃い2教師とともに、「ユニバーサル学園」を歌い上げます。先ほどまでシリアスな空気に呑まれていた客席を、そのコミカルなパフォーマンスでしっかりと温めました。
シーン3〈フリークラスの実態〉
マダム・デルタは、学校見学に訪れた保護者たちに、フリークラスの落ちこぼれ生徒たちの入学当初を映したムービーを公開。ダークな旋律とテンポあるナンバー「フラストレーション」での刃物を突きつけるようなダンスと歌からは、生徒たちの荒んだ様子がうかがえます。しかし半年も経つと、生徒たちは別人かと思わせるほど従順に。コワモテやムーミーの「体力増進運動」「語呂合わせ暗記年表」という2つのナンバーに乗せて、その様子がコミカルに表現されました。振付の妙が楽しい3つのナンバーで見応えのあるシーンでした。
シーン4〈アリスとフリークラス〉
ドップラーの手によって、精巧につくられたアンドロイド・アリスは、自身がアンドロイドであることを自覚しないまま、ユニバーサル学園で音楽教師としての人生を歩み始めました。積極的にアプローチをかけるアリスに「今までの先生とは違うかも」と、早くも心を開き始める生徒も現れます。
シーン5〈紡ぎだされる記憶〉
野外学習で外に出たアリスと生徒たち。授業のあと、その場に残ったエリナに将来の夢を尋ねるアリス。ところが、エリナの口から“宇宙飛行士”というワードが出た瞬間、アリスはひどい頭痛に襲われます。本来の記憶が別の設定に上書きされ、さらにラシード博士の記憶が重ねられたアリスの人工知能は、本来の記憶に強く結びついたワードに過剰反応を起こしてしまったのです。タイトルナンバー「紡ぎだされる記憶」では、頭痛に苦しむアリスに手を差し伸べるように、ラシード博士の柔らかな歌声が遠くから届き、上書きされたはずの記憶は、おぼろげに紡ぎ出されていきます。
シーン6〈浮かび上がる疑念〉
アリスは頭痛がおさまると、今度は地震の予兆を察知。エリナとともに帰路を急ぎますが、道半ばで大地震が発生。エリナの足には、人一人ではとても動かすことのできない大木が倒れかかります。しかし常人以上のパワーがプログラムされているアリスは、その木を持ち上げてエリナを救出します。その一部始終を陰から見ていたエリナの親友・リカが「アリス先生、もしかしてアンドロイド?!」と疑念を残し、第1幕は閉じられます。
第2幕(シーン7~10)
シーン7〈ボランティア活動〉
学園周辺に大きな被害はなく、アリスは生徒たちとともに、被災地でボランティア活動に参加することに。冒頭の被災地のシーンでは、衣装とコミカルなダンスが楽しい「災害アンドロイド」のナンバーが展開されます。続いて大合唱されるナンバーは「ボランティア活動」。現地に到着したフリークラスの生徒たちが、災害アンドロイドたちとともに被災者のケアや復興作業に精力的に励みます。
シーン8〈オリジナルソングの完成〉
被災地から生徒たちと共に学園に戻ってきたアリスは、ボランティア活動の経験を生かした曲作りを生徒たちに提案します。担当することになったのは、詩を書くのが好きなフレアとシンガーソングライター志望のミレット。やがて、楽曲「いとしいお星さま」が完成します。そこへ時を同じくして、生徒たちに復興支援コンサートへの出演オファーが舞い込み、「いとしいお星さま」を合唱曲として出演することに。
シーン9〈終幕のサスペンス〉
迎えたコンサート当日。コンサートは全世界にライブ配信されており、ドップラーやアンドロイド・アリスの再製作を命じたビアンカ警部も見守ります。実はこの日は、パスワード解析のタイムリミットであり、同時にアリスのアンドロイドとしての寿命も限界を迎える頃。ビアンカ警部は焦りを隠せません。
そしていよいよフリークラスの出番。特別な衣装を身にまとった生徒たちが「いとしいお星さま」を、のびやかな美しいハーモニーで響かせます。パフォーマンスが好評を博すと、今度はフリークラスを受け持つアリスにスポットが当たり、シンガーソングライターとしてデビューしていた過去が明かされます。これは、ドップラーによって急遽プログラムされた設定で、パスワードを引き出すために必要な一手。そして歌われたアリスのデビュー曲「Good-by the Grim Reaper」。アリスの力強い歌声に生徒たちのコーラスが重なって生まれた音楽のエネルギーからは、タイトルが指す通り“さらば、死神”という気概が感じられました。「パスワードはまだか!」と迫るビアンカ警部を制し、アリスの歌唱に集中するドップラー。そして——。
パスワードを入力していないはずの“戦略発動ボタン”が、突如作動。そして同時に、戦略プログラムは破壊されてしまいます。
シーン10〈種明かし〉
ビアンカ警部に詰め寄られたドップラーは、ラシード博士が生前面会に訪れた際、「アリスの歌声は世界を救う」と意味深に漏らしていたことを思い出し、答えに辿り着いたことを告げます。ラシード博士が、死をもって戦略の発動を阻止しようとした意志を継ぐため、破壊プログラムを組んだことも。
役目を終えたアリスは、自分がアンドロイドであること、そして間もなく消滅してしまうことを生徒たちに打ち明けます。度重なる頭痛から、自身の正体とこれから起こるすべてを自覚していたのです。突然の別れに心を痛める生徒たち。アリスはエールを込めて「あなたの未来」を歌い上げます。最後には生徒たちも加わり、大合唱でフィナーレへ。「パパもどこかで聴いているんでしょう?」と呼びかけられたドップラーがアリスの声に応え、親子の確執も雪解けを迎えました。
アリスが生徒たちのハーモニーを背に受けながらステージの向こう側に消えゆく感動的なラストで、物語は閉幕。本編終了後、羽鳥教授による挨拶とキャスト紹介が行われ、アンコール的に「あなたの未来」がオールキャストで披露されました。万雷の拍手の中、緞帳が床につく最後の最後まで、キャストは終わりを惜しむかのように、観客に手を振り続けていました。
Photo/齋藤遥
「PIA LIVE STREAM」でストリーミング配信決定!
*配信は終了いたしました。
4/28(金)、『紡ぎだされる記憶 -アンドロイド物語-』ストリーミング配信スタート!
- 配信期間:2023年4月28日(金)0:00~5月7日(日)23:59
*期間中何度でも視聴可能 - 視聴券販売期間:~2023年5月7日(日)21:00まで
- 価格:1000円(税込)
*ご購入チケット1枚につき220円のシステム利用料が別途かかります - 販売数:200枚(先着順)
- 視聴券購入ページ(当公演専用サイト):🔗https://w.pia.jp/t/daion-musical12/
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