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〈レビュー〉第35回ザ・コンチェルト・コンサート


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研究生によるレビュー

〈大阪音楽大学大学院を修了後、専門分野を研究し続けている「研究生」。本記事では研究生が観覧したコンサートレビューをお届けします〉

暦の上では立冬を過ぎたがなかなか気温が下がらず、秋雨がようやく秋の気配を呼び込みはじめた11月10日の夜、大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスで「第35回ザ・コンチェルト・コンサート」が行なわれた。「選抜学生による協奏曲演奏会」の副題が示す通り、通常であれば音楽大学を卒業したのちに機会を得られるかどうかといった協奏曲のソリストを、オーディションはあるものの在学中に務めることができるというなんとも贅沢なコンサートだ。この日も選抜を勝ち抜いた5人の学生による4つの協奏曲が披露された。一夜にして4つの協奏曲が聴けるという意味でもなかなか類を見ないコンサートである。

2台のピアノのための協奏曲

2台のピアノのための協奏曲(西川奈央さん・加藤弥生さん)

初めに登場したのは、大学専攻科で学ぶ西川奈央さん・加藤弥生さんのペアによる《2台のピアノのための協奏曲》(F. プーランク作曲)。この日のふたりのドレスのようにぴたりと揃った2台のピアノの演奏は、第1楽章から時にオーケストラとの掛け合いの妙を見せたり、時にはピアノ同士で濃厚に絡みあったりと聴いていて変化があり飽きさせない。プーランクを形容する有名なことばに「僧侶と悪ガキが同居している」というものがあるが、この楽章は後者のほうであろう。第2楽章では、作曲前年のパリ植民地博覧会で影響を受けたというガムランを模した音が奏でられる。本学では民族音楽を学ぶ一環としてガムランが開講されており筆者も受講したが、王宮で奏でられるというジャワ・ガムランのような繊細な音色がタッチで表現されていて驚いた。第3楽章は再び“悪童”。おもちゃ箱をひっくり返すような何が出るかわからないワクワク感をバランスよく表現していた。

西川奈央さん

加藤弥生さん

クラリネット協奏曲第1番

クラリネット協奏曲第1番(佐藤優羽さん)

続いては大学3年の佐藤優羽さんの《クラリネット協奏曲第1番》(C. M. v. ウェーバー作曲)。疾走感のあるAllegroで始まる第1楽章では、テンポに流されることのない丁寧なフレージングが印象に残った。第2楽章の緩徐楽章や静かな場面を経て、第3楽章ではフレージングの巧みさに加え、緩急や大小、遠近といったさまざまな対比を楽譜からくっきりと浮き上がらせる、大向こうを唸らせる演奏だった。

佐藤優羽さん

ホルン協奏曲

ホルン協奏曲(藤田彩花さん)

休憩ののち、A. ロセッティ作曲の《ホルン協奏曲》。筆者は初めて耳にする作曲家だったが、ボヘミア出身でドイツ宮廷で活躍した人物とのことだった。古典派の作曲家によくある多作なタイプで、今回演奏されたもの以外に実に16曲ものホルンのための協奏曲を残している。モーツァルトも参考にしたという協奏曲を、ホルンの大学4年・藤田彩花さんはホルンらしい伸びやかな音で軽やかに奏でていた。速いパッセージでもっと音への焦点が合い解像度が上がると、王宮の娯楽として消費されたもの以上のこの曲のさらなる魅力を伝えられるように感じた。

藤田彩花さん

ピアノ協奏曲第4番

ピアノ協奏曲第4番(川﨑麗美花さん)

最後はL. v. ベートーヴェン作曲の《ピアノ協奏曲第4番》。協奏曲の常道に反する独奏楽器で始まる第1楽章から、川﨑麗美花さん(大学演奏家特別コース3年)の端正な音色に引き込まれた。筆者の座席はピアニストの表情が見える位置だったが、この日いちばんの情熱的な指揮を見せる新道英洋さんに対し、涼しい顔色でピアノから力強い音を引き出す様子は将来の名ソリストとしての風格を感じさせた。深い内面性のある第2楽章では、決して小さくはない音量の中にしっかり芯のあるピアニッシモの音色を表現していた。ちなみに彼女はこの日のソリストの中でもっとも多く指揮者とコンタクトをとっており、第3楽章で多くあった掛け合いもオーケストラの大人数と息がきちんと合っていた。

川﨑麗美花さん

5人のソリストへもそうだが、マエストロとザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団にも最大級の賛辞を送りたい。時にソリストを立て、時に主役となって古典派から近代までの幅広い時代を横断して演奏を引っ張っていけるたしかな技術があった。また、彼らの演奏家の卵を育てようとするまなざしと拍手も温かいものだった。

このコンサートは、客席にいる同級生や後輩たちには励みや目標になるだろうし、また市井の音楽ファンにとっても成長が楽しみな音楽家を見つけられる機会となることだろう。何よりソリスト一人ひとりにとって、これからの飛躍への足がかりとなる貴重な一歩でもある。これからのザ・コンチェルト・コンサートと若き演奏者たちの未来に期待したい。
Text / 坂井威文(大阪音楽大学研究生)