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連載【セルフプロデュース】欧州のピアニスト指導者が留学を指南


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さまざまな視点

2023年に本学でスタートしたのは、全国でもめずらしい「演奏領域におけるセルフプロデュース」を学べる特別講義。各界のトップランナーから、自分の表現をしっかりと周りの人に伝えていくためのノウハウを学んでいます。リスト・フェレンツ音楽大学(リスト音楽院)とソフィア王妃音楽大学で指導するピアニスト、グヤーシュ・マールタさんを迎えた第6回のテーマは「ヨーロッパの音大では何を教えているか」です。

言葉を超越した表現力を持つ音楽

グヤーシュ・マールタさん

ミレニアムホールを会場に、まずは本学教員の赤松林太郎さんとの2台ピアノ、そして連弾でのミニコンサートから始まりました。演奏したのは、モーツァルト「2台ピアノのためのソナタニ長調KV.448」とラフマニノフ「連弾のための6つの小品Op.11」(抜粋)。この日は冬のオープンキャンパスが行われており、客席には高校生の姿もありました。

赤松:今日は一緒に演奏できて楽しかったです。2日前には大阪音楽大学でたくさんの学生さんにレッスンしていただきました。短い間でしたが、この学校についてどんな印象をお持ちですか。

グヤーシュ・マールタ:すごく魅力的な大学に来ることができたことを光栄に思います。ピアノもホールの音響も素晴らしい。2台ピアノではそれぞれのピアノで演奏したのに一体になったような気がいたしました。

赤松:今日は、70歳という年齢を感じさせない、すごくエキサイティングで情熱的で、そしてチャーミングな彼女の音楽家としての内面に触れていただけたらと思います。

赤松:たぶん皆さんの中には留学を視野に入れていらっしゃる方がいると思います。日本人にとってまず一番大きな壁が外国語だと思うんですね。それから、私たちの性格と外国の方のキャラクターの違いも、いつまでたっても大きな壁になっています。そのようなものを打ち破って世界で活躍していけるようになるために、皆さんそれぞれのアンテナでキャッチしていただきたいと思います。

グヤーシュ・マールタ:2日前に数名のレッスンをさせていただきましたが、とても優秀な方たちで、反応もよくて充実した時間でした。ただ、1人1人のレッスン時間が短くて、伝えたいことをすべてお伝えできなかったことが心残りです。私は日本語をしゃべることができませんが、音楽には関係ありません。音楽の素晴らしいのは言葉を超越した表現力があること。今日赤松先生と演奏しましたが、お互いの音楽での会話でコミュニケーションが成り立っていけば素晴らしいものになるんだということを、あらためて感じることができました。

底知れぬ音楽家としての情熱

赤松:レッスンの時も本当に情熱があふれていて、音楽の話がとめどもなく出てくるんですよ。私たちは年齢も離れていて言葉の壁もありますが、音楽でコミュニケーションをとって、より良い音楽にしていこうとすることができました。こういう経験は一時的なもので、この熱を持続していかなければなかなか音楽家という仕事はできません。彼女は熱量が絶えず、体の中にマグマがあるんじゃないかと思ったりします。先生にとって、音楽家を続けていく秘訣とは何でしょうか。

グヤーシュ・マールタ:私は43年間指導にあたっています。音楽にゴールはなく、自分のやりたいこと自分の目標にしているところに向かって、永遠に学んでいくものだと思っています。私の場合は生徒だけじゃなくて、生徒のまた生徒さんというように、私が培ってきた指導が今の若者に伝わっていっているということが嬉しいところです。私も一生音楽家を続けていくために、皆さんと一緒に学んでいます。

グヤーシュ・マールタ:私は1976~79年にモスクワ音楽院で学びましたが、海外に行くことすら難しい時代にモスクワで学べたことは幸運でした。当時よく言われたことは、どれだけ多彩な素晴らしい音色が出せるかということ。ドミトリー・バシキロフ先生に学んでいましたが、先生は同級生のピアノの弦を切ってしまったことがありました。それは、同級生がピアノをたたいてしまったから。音色に重点を置いていたので、大きな音を出すにはたたくのではないという教えのもとでした。ピアノは一台の楽器からあれだけの音色を出せ、さまざまな奏法で音楽を奏でられることを学び、それを私も生徒に伝え続けています。

室内楽を愛するわけ

赤松:なぜ室内楽に進まれたのですか。

グヤーシュ・マールタ:ソリストに進まず室内楽を選んだのは、楽曲の多さと音楽の豊かさに興味があったからです。私も実はソリストとしてロシア国内をツアーしたことがありますが、1人で寂しかったのです。室内楽では複数の方と音楽が奏でることによって、自分が見えていなかった音楽に出会えました。複数で奏でる音楽を読み取り奏法として取り入れていくことも、とても大事だと思いました。


赤松:日本には室内学科がありません。私はパリでピアノと室内楽を学びましたが、日本では室内楽がちょっと片手間になっているのでもったいないなと思いました。私自身もし室内学科があったら、そっちの先生になりたいと思っているくらいです。先生は、日本で室内楽を教えられたことはありますか?

グヤーシュ・マールタ: あります。日本でも主科でピアノを専攻して、チェンバロをやることもあると思います。ヨーロッパではチェンバロが定着していて、学生でもプロのソリストでも、フェスティバルではチェンバロをみんなで組んだりします。日本もいずれそういう風潮になればいいですね。
室内楽は初めのリハはうまくいきません。良くも悪くも各自の思いや音楽をぶつけてくるので。それがどんどん混合されていき、色が鮮やかになり、コンサートではまとまって披露されます。ソロでは味わえない室内楽の醍醐味です。本当にお薦めしたいですね。

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留学はゴールではなくスタート

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