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連載【セルフプロデュース】欧州のピアニスト指導者が留学を指南


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さまざまな視点

2023年に本学でスタートしたのは、全国でもめずらしい「演奏領域におけるセルフプロデュース」を学べる特別講義。各界のトップランナーから、自分の表現をしっかりと周りの人に伝えていくためのノウハウを学んでいます。リスト・フェレンツ音楽大学(リスト音楽院)とソフィア王妃音楽大学で指導するピアニスト、グヤーシュ・マールタさんを迎えた第6回のテーマは「ヨーロッパの音大では何を教えているか」です。
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生徒と一緒に学び続ける

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コロナ禍を乗り越えて

赤松:コロナ禍の時はアンサンブルをするというのが難しかった。ヨーロッパではどうでしたか。

グヤーシュ・マールタ:リスト・フェレンツ音楽大学(ブダペスト)はすぐにクローズしました。私はオンラインレッスンに慣れなくて、もし良ければということでホームレッスンをしていました。画面を通してやるよりはずっとずっといいレッスンができました。ソフィア王妃音楽大学(マドリード)は2ヵ月ほどで通常授業が再開しました。コンサート会場はクローズになりましたから、音楽としても教師としても行き詰った思いがしました。ですがこうやって、また自由に行き来できるようになりすごく嬉しいです。
音楽なしでは人生は成り立たないと思っています。日常生活の中にあるものであって、私たちは常に音楽を聴き、奏でています。

赤松:学生の頃、先生の室内楽を聞いてこんなすごい人がいるんだ、いつか一緒に演奏できたらと思っていました。だから今日すごく嬉しかったです。コロナ禍で多くの共演者を亡くしており、いつかできると思っていてもできないことも本当に多い。だから今日の日が叶ったことも、音楽をやっていたからだと思います。こういった夢は人生を豊かにしてくれます。コロナ禍で音楽は不要不急だと言われましたが、人の人生をも左右する大切なものだと改めて思いました。

学生に沿った指導で

赤松:ヨーロッパの学生さんはどういうふうに音楽家として成長していくのですか。

グヤーシュ・マールタ:どう教えていたのかと聞かれるとき、「それは分からないわ」と言います。こうしなさい、ああしなさいとは言いません。逆に学生さんに、どうしたいのかどう進めたいのか聞いて、それに沿ってレッスンをしてきました。そうしたいならこうした方がいいよね、というようにアドバイスしていくのが私の役目だと思っています。十人十色という言葉があるように一人一人がキャラクターも楽器も表現も違うので、一つのマニュアルがあれば簡単ですが、その人その人に合った奏法を見つけて一緒に進んでいくような形を取っています。

赤松:教育する側にとって、すごく胸に響くお話です。先生は音楽のように次々とフレーズが出てきて、ずっと音楽のことを話していらっしゃる。すごくおもしろかったのが、大学の特別レッスンで15分の休憩時間、「休むんだったら、私にレッスンをさせて」とおっしゃった。音楽が彼女にとって命なんだなと思った瞬間でした。

留学はゴールではなくスタート

赤松:私は日本の音大を経ず、ヨーロッパで学んだので、日本の大学の先生になってびっくりしたことがあります。「あなた、将来何になりたいの?」と尋ねて、「ピアノストにはなりたくない、先生になりたい」という答えでした。すごくショックでした。ピアノの美しさや奇跡、人生に与えてくれる影響を知らなければ、音楽を教えることはできません。ピアニストを目指す手段の一つに、留学がありますが。

グヤーシュ・マールタ:留学する国を知ることが必要だと思います。まず一番のポイントは先生探し。インターネットでも学校や先生のレッスン動画を見ることができますし、さまざまな情報を得ることができます。実際に行く前にスタートできるのは現代の素晴らしいところ。さまざまな方法で自分に合った先生、学校を探すといいと思います。そして、卒業して終わりではなくそこから始まりだと思うことが必要です。

赤松:大学に入り、そして卒業することはゴールではなく、そこからキャリアが始まります。卒業後、どういう音楽家になりたいのか、どういう先生になりたいのか、それを熟成させる機会にしてほしい。クラシックの音楽はあくまでヨーロッパの音楽で、ヨーロッパの風土や歴史をちゃんと理解して表現しなければいけないと思います。ぜひ留学というものを夢見ていただきたいです。

グヤーシュ・マールタ:音楽は言葉。音楽で奏でる言葉を人生の最後まで持っていてほしい。音楽を奏でる場所はどこでもいいと思います。その場所があなたにとって大切な場所になれば、音楽は成り立ちます。人生の中で自分を豊かするための一つの方法が、どこかで音楽を奏で続けること。そうすれば幸せに日常が過ごせていけるんじゃないかと思います。

赤松:本当に幸せな時間を過ごさせていただきました。また来日してくださることを祈ってやみません。本日はありがとうございました。

Text / 齋藤架奈枝

Marta-Gulyas(グヤーシュ・マールタ)
ハンガリー出身。ブダペストのリスト音楽院にてラントシュ・イシュトヴァーンに師事し、卒業後はモスクワに渡り、チャイコフスキー音楽院にて、ドミトリー・バシキロフ教授の下で奨学金生として学ぶ。ドビュッシー・ピアノ国際コンクール第3位、ワイネル・レオ国際室内楽コンクール第1位、ハンガリーラジオピアノ国際コンクール第3位、バルトーク・アーリーミュージックMIDEM 賞受賞。ハンガリー共和国より1985年「ハンガリーの文化」受賞。1998 年リスト・フェレンツ賞。2014、2018 年にはスペインのソフィア王妃より名誉勲章を受賞。2017年最優秀室内楽演奏家及び指導者に贈られるワイネル・レオ記念賞 。2018年ハンガリー国家勲章及び功労賞受章。世界各地の主要な音楽祭やCD収録に出演し、著名な演奏家から絶大の信頼を受けている。国際コンクールやマスタークラスの招聘も多い。現在ソフィア王妃音楽大学(マドリード)ピアノ科・室内楽科教授、リスト・フェレンツ音楽大学(ブダペスト)室内学科長を経て室内楽科准教授。