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連載【セルフプロデュース】注目の若手ピアニスト・山縣美季が「学生のうちにしてきたこと」


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さまざまな視点

今春本学でスタートしたのは、全国でもめずらしい「演奏領域におけるセルフプロデュース」を学べる特別講義。各界のトップランナーから、自分の表現をしっかりと周りの人に伝えていくためのノウハウを学んでいます。6月11日は東京藝術大学4年生でピアニストの山縣美季さんをお迎えし、ナビゲーター役の大阪音楽大学准教授・赤松林太郎さんが「私が学生のうちにしてきたこと」をテーマにお話を伺いました。
- Topics -

クラシックの輪を大きく広げたい

“ショパン ピアノ協奏曲第2番”愛

赤松:セルフプロデュースを考える上で示唆に富んだキーワードがたくさん出てきますね。自分の心に素直に、自然体であること――山縣さんらしさはプログラムの選曲にも表れているのかなと感じています。冒頭で触れたピティナの特級ファイナルでショパンのピアノ協奏曲第2番を演奏しましたね。コンクールでは敬遠されがちな第2番を選んだのはなぜなんでしょう?
山縣:「この世の作品の中で一番好き」というぐらい、昔からショパンの第2番は大好きな曲なんです。第1番にも取り組んだことはありますが「やっぱり2番かな」とずっと思っています。自分の心をありのままに表現できるし、素直にフィットしてくるところにものすごく惹かれています。コンクールだろうと、何だろうと、やっぱり私はこの作品とともにありたいと思って選曲しています。

魅力を届けてもっと大きな輪に

赤松:第2番はこれまで数多くのピアニストが弾いていて、私もたくさんの演奏を聴いてきましたが、山縣さんのように作品側から演奏者に寄り添って、あたかも「ショパンが守ってくれている」ような印象がオンラインでも伝わってきたことに驚きがありました。「期待の新人」と言われる中で、これからのクラシック音楽界には何を期待しますか。
山縣:クラシック音楽の世界はすごい熱量で応援してくださる方がたくさんいてありがたいと思う一方、それがクラシック界特有の閉ざされた世界というのか、興味がない人にその魅力を届けられていないように思います。クラシック界にいる一人として、社会の一部にクラシックがうまく関わって、もっと大きな輪になったらいいなとずっと思っています。
赤松:国際ピアノコンクールを舞台にした小説「蜜蜂と遠雷」が直木賞を受賞し、映画化もされました。2021年には反田恭平さんがショパン国際ピアノコンクールで第2位になるなど、クラシック音楽とりわけピアノに対する世間の注目度は高まっています。さらにコロナ禍でコンクールが配信されるようになり、国際コンクールがある意味でエンターテインメント化してきている今は、輪を広げるチャンスかもしれませんね。

【ピアノコンチェルト演奏】(抜粋動画)

当日披露された、ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番(一部抜粋)
(ソリスト 山縣美季/オーケストラパート 赤松林太郎)

重圧と孤独感が消えた理由

赤松:今日のピアノコンチェルトの演奏では、ラフマニノフの第2番を選ばれましたね。
山縣:今日、どんな方がいらっしゃるかなと考えたときに、ラフマニノフなら音楽に興味がない方でも心を突き動かされる普遍的な魅力があるんじゃないかと思い選曲しました。赤松先生と弾いてみたいなと思ったことも理由の一つです。

大学3年生のとき、ソリストとして初めて舞台で演奏したのがまさにラフマニノフの第2番だったんです。当時は「ソリストってこんなに責任重大で、孤独なんだ」と大きな不安を感じました。その後、コンチェルトの機会を重ねる中でオーケストラと一体となって演奏することもあれば、ピアノが引っ張っていくことや、あおり合ってバチバチと闘うような演奏もありました。オーケストラは音楽を一緒に作り出す仲間なんだと感じられるようになり、ソリストであることに孤独を感じなくなりました。音楽を一緒に作る楽しさを知ってからはコンチェルトが楽しくて、大好きになりました。

ミレニアムホールで演奏する山縣美季さん

赤松:ピアノを弾いている人なら孤独ってすごく感じるだろうけど、コンチェルトを通して「オーケストラのみんなと音楽を共有する」という経験は大きいですよね。そういう意味では、私は山縣さんと逆の意見になってしまうのですが、「なんで、僕の望み通りの音を出してくれないの」「なんでもっともっと来てくれないの」「この熱量を受け取ってよ」と葛藤するときがあります。
山縣:確かにありますね。リハで違和感を持ったら、本番ではどうにか“火”をつけようと必死にあおりますね。
赤松:ヨーロッパだとけんかになりますよね(笑)。オーケストラって“軍隊”みたいなもので、みんながソロ意識を持って責任感の塊という意識でやっているわけではないので…。そうは言っても本番はみんなが責任を共有して演奏しなければならない。室内楽だったらお互い気心が知れているし、良くないところもちゃんと指摘してお互いにシェアして良いものを作っていこうという心の絆を作れるジャンルだと思うのですが、コンチェルトって、もう二度と一緒に演奏しない人の方が多い。一期一会で一夜限りの感動を作っていく作業ってものすごく大変だと思いますが、音楽でしかできないコミュニケーションの一つですよね。

気持ちに素直に、音楽への愛を抱き続ける

赤松:最後に、皆さんにメッセージをいただけますか。
山縣:中学生のころはずっとくすぶっていて、心の奥底にあったはずの「音楽を好き」という気持ちを忘れていたに等しい時期もありました。それでも、どうにか音楽高校に入ってからは音楽が楽しくてしかたがなくて。今は楽しい音楽、大好きな音楽を皆さんにお届けできることが幸せだと思っています。

(今日来場いただいた方の中にも)進路をどうしようか迷っている人もいると思うんですけど、音楽とともに楽しく生きている人間として伝えたいのは、音楽をずっと愛していってほしいなということに尽きます。今、音楽を続けているということは、好きという気持ちに偽りはないだろうし、その気持ちに素直に生きて、音楽と一緒にいられるように音楽への愛をずっと抱いてほしいなと思います。

山縣美季さん

赤松:山縣さんご自身は今日のお話で何か気づきなどありましたか。これからの目標なども教えてください。
山縣:ここに来るまで「何を話そうかな」と考えているときに、「あ、自分ってこう思って生きていたんだ」と気づくことがたくさんありました。赤松先生とのお話でも、私は自分のやりたいこと、好きなことを、素直に追求できていると気づくことができて、すてきな機会をいただいたなと感じています。

これからは留学や国際コンクールにも挑戦したいと考えています。挫折も含めていろいろな経験を通して視野を広げて、自分自身を信じてあげながら一歩ずつ進んでいけたらいいなと思っています。
赤松:期待以上にいろいろなお話を伺えました。ありがとうございました。
Navigator&Interview/赤松林太郎
text/野田直樹(高速オフセット)

山縣 美季
2002年生まれ。第89回日本音楽コンクールピアノ部門第1位及び野村賞、井口賞、河合賞、三宅賞、アルゲリッチ芸術振興財団賞受賞。第44回ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナル入選。かながわ音楽コンクールでユースピアノ部門とピアノ部門の両方でコンクール史上初の同年二冠(どちらも最優秀賞)を果たす。第2回ノアンコンクール第1位、ノアン賞受賞。フランス・ノアンにてノアンフェスティバルショパンに出演。これまでシレジア・フィルハーモニー管弦楽団、プリマヴィスタ弦楽四重奏団、神奈川フィルハー モニー管弦楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団などと共演。NHK Eテレ「クラシック音楽館」、NHK FM「リサイタル・パッシオ」に出演。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、現在東京藝術大学宗次德二特待奨学生として東京藝術大学4年に在学中。2022年シャネル・ピグマリオン・デイズ参加アーティスト。2022年度 ロームミュージックファン デーション奨学生。東誠三、日比谷友妃子の両氏に師事。