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【上野星矢】世界的フルート奏者・上野星矢「100年に1人」の現在地


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アーティスト

フルート界で「100年に1人の逸材」と称される上野星矢さん。2008年「第8回ランパル国際フルートコンクール」に19歳で優勝、2012年のCDデビュー以降も世界を舞台に活躍。活動の幅は自身の演奏だけにとどまらず、フルート初心者でも気軽に参加できる演奏会や合宿の企画のほか、2019年からは大阪音楽大学の准教授として、未来の演奏家の育成にも心血を注いでいます。今回は、上野さんとフルートとの出会いから、幅広い活動に対する思いを伺いました。

自分の中に湧き上がる感情を大切に

――演奏面では、クラシックだけでなくJ-POPの曲も演奏されています。

音楽家である以上、自分の中で美しいと思うものと、あまり好みではないものはハッキリしているべきだと思っていますし、美しいと思うものはどんなジャンルであろうと演奏するというのが私のモットーです。

音楽って突き詰めると「ド・レ・ミ」でできているという部分では同じものですよね。じゃあ、「クラシック」や「J-POP」といったカテゴリーの境界線を“作っている”のは誰? という話なんです。

クラシックは年代的に昔に作られた曲というだけの話であって、現代でもクラシックの作曲家として活躍されている方はおられます。その人が作る曲とポップスって何が違うんでしょう。私自身はよく分からないというか、分かろうとしていない。自分の技術や感性で演奏できるものは何でも演奏したいと思っていますし、J-POPの曲を通してフルートに興味を持ってくださる方も増えているように感じます。

――上野さんが現在の演奏に乗せたい「心からのメッセージ」とは。

誰かが作った作品を演奏する以上、私自身の気持ちだけでは作品の全ては表現しきれないと考えています。練習を重ねて作品と関わっていく中で作曲家が描いていた世界と自分が感じる世界をなるべく近づける努力をしています。

自分が演奏する意味として「上野星矢らしさ」は絶対に必要ですが、それは意識しなくても自ずと出てくるもの。作曲家の思いに寄り添い、一緒に歩んでいるという気持ちで演奏するようにしています。

曲を解釈する上では、作品の背景――どういう場面を想定した作品なのかを調べたり、同じ作曲家の他の作品を聴いてみたりします。ただ、そういった下調べも行き過ぎると私が演奏する意味が薄れてきます。曲を通して自分の中で生まれる感情を一番大事にしています。
――演奏技術を高める一方、心の整え方で心掛けていることは?

忙しくなると身の回りのいろいろなことに意識を向けすぎて、目の前に見えているモノに集中することが難しくなります。集中力をリセットするために、一日の中で数十分でも1時間でも、何も考えないで目の前にあるモノだけに意識を向ける。何も考えずに楽器を演奏する。そういう時間を意識的に作るようにしています。

最近は特に練習する時間を見つけることも難しくなっています。5分、10分といった限られた時間でも「今これだけやろう」「一小節だけ吹こう」といったタイムマネジメントも大事になっていますね。

他のことを全部忘れて音楽と向き合う時間

――それだけ多忙な中、後進を育てることにも注力されています。

私自身が音楽を学んできたということは、これまで師事してきた先生方の教えがあったからこそ。それをまた次の世代に循環させることは、演奏家として当然の使命だと考えています。

多忙な中でも、私自身の演奏を突き詰めることはできると思っているので、指導に時間を割くことが何かを犠牲にしているという気持ちもありません。逆に「演奏家は演奏だけしていればいい」という考えの方がある意味すごく利己的だと思いますし、教える人がいないと音楽家はいなくなってしまいますよね。
――さまざまな指導者から教えられてきたことで、今の核になっていることは?

10歳だろうが20歳だろうが、何歳であっても、それまで体験してきたことの中で一番強い喜怒哀楽、感情を呼び起こせるようにすること。その先に、さらに繊細な種類の感情――例えば、青い花、黄色い花、それぞれを見たときの感情の違いを繊細に表現する技術。音楽の中ではそういったことが音符に表されているので、些細な音の変化により繊細に接することの大切さはよく言われました。これは作曲家の意図と自分の気持ち、感情を寄り添わせるために必要な部分です。
――大阪音楽大学で指導を始めて5年。上野流のメソッドとは。

学生たちは多感な世代なので、音楽以外にもさまざまな悩み、葛藤などを抱えていると思います。ただ、レッスンの間はそれらを全部忘れて、音楽に没頭してほしい。他のことを全部忘れて音楽、楽器と向き合う時間にしたいという思いから、レッスン以外のことは極力話さないようにしています。

まだプロではないとはいえ、大阪音楽大学には素晴らしい才能を持った学生がたくさんいます。学生たちがうまく表現できていなくても「こういうことを感じて演奏しているじゃないか」ということは繊細にくみ取りたいと考えています。高校までのさまざまなバックグラウンドをそれぞれ持つ学生は、同じことを指導するにしても捉え方がそれぞれ違います。学生一人ひとりにとって一番分かりやすい、共感しやすい言葉をいつも探しています。

やりたかったことはほとんどスタートできた

――アーティストとして、これから目指す方向性やビジョンは?

何か大きなビジョンを掲げてさらに幅を広げるというより、今のまま変わらず活動を続けていきたいと考えています。

冒頭お話ししたように、自身の演奏活動や後進の育成、音楽界を盛り上げるための企画などに幅広く取り組んできました。今年で35歳になりましたが、昔から思い描いていたことや「いつかやってみたいな」と考えてきたことはほとんどスタートさせることができています。

ただ、これまでもこれからも、私一人でできることは限られています。今後は、私の思いに賛同してくれる仲間やスタッフと共に、これらの活動をブラッシュアップして先鋭化していくフェーズだと考えています。
Interview&Text / 野田直樹(高速オフセット)

上野星矢(Seiya Ueno)
東京都出身。小学校4年生でフルートを始め、国内の主要コンクールの数々で優勝を果たす。2008年、東京藝術大学音楽学部フルート専攻入学。同年、世界的フルート奏者の登竜門である『第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール』優勝。杉並区文化功労賞受賞。2009年よりパリに留学し、パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で入学。2012年、パリ国立高等音楽院第1課程を審査員満場一致の最優秀賞並びに審査員特別賞を受賞し卒業。2014年、ニューヨーク・ヤングアーティスト・コンペティション(NewYork Young Concert Artist 2014)にて最優秀賞。2015年秋には全8か所のアメリカツアーを成功させ、ケネディセンターでのリサイタル、最終公演はニューヨーク・カーネギーホールでリサイタルデビューを果たす。第25回青山音楽賞新人賞受賞、第17回ホテルオークラ音楽賞受賞。国内外のオーケストラと協演、メディアにも度々出演している。2019年より大阪音楽大学准教授。現在はソロリサイタルやオーケストラとの協演などの他、後進の指導など、あらゆる分野にて活躍中。