【YASSY】音楽も人生も、脱力して空っぽに――気持ちに素直な音だけが人の心に刺さる(2ページ目)
今年、結成30周年を迎えるBLACK BOTTOM BRASS BAND(以下BBBB)。ニューオリンズスタイルのジャズバンドとして全国ツアーや幅広いジャンルのアーティストとのコラボなど精力的に活動する一方、近年は一般財団法人「地域創造」の登録アーティストとして小・中学校でのアウトリーチ活動などにも力を注いでいます。今回はBBBBのリーダーで大阪音楽大学の卒業生でもあるYASSY(ヤッシー)さんに、バンド結成の経緯から音楽活動に対するスタンスや思いを伺いました。【2ページ目/全2ページ】
「アウトリーチ」は「ライブ」「音楽制作」と並ぶ活動の3本柱のひとつ
――デビューから8年後、2004年にアウトリーチ活動を始めたきっかけは?
BBBBが登録アーティストになっている「一般財団法人 地域創造(以下、地域創造)」は、音楽やダンス、演劇などの文化・芸術を通した創造性豊かな地域づくりを目的とする団体です。1994年の設立以来、しばらくはクラシック音楽が中心だったようですが、ジャンルの幅を広げていく中で、ジャズバンドのアーティストとして僕たちが誘われました。それまでアウトリーチ活動なんて知らなかったし、ちょうど僕らが東京に進出する直前でもあったんですけど、関西でお世話になった人からの誘いだったことと「アウトリーチ活動で日本全国のいろいろな街に行けるぞ」という言葉につられて(笑)オーディションを受けることに。オーディションではBBBBらしく勢いよく演奏して「僕らは音楽でいろいろな街を元気にします!」とPRしました。知り合いからの誘いだし、きっと合格するだろうと僕は楽観的に考えていたんですけど、他の受験者は東京藝大卒の音楽家とか、コンクールで1位を取った人とか、そうそうたる経歴の持ち主。オーディション直後は、メンバーから「あんなんで合格できると思ってたんか!?」とあきれられました。
登録アーティストになってから2024年で20年。当初は手探りで始めたアウトリーチ活動も、今となっては「ライブ活動」「音楽制作」と並ぶ3本柱のひとつになっています。47都道府県はすべて訪問しましたし、聞いた話だと、地域創造の登録アーティストの中で、僕たちのアウトリーチの件数がダントツに多いらしいです。それぐらいのめり込んでいますね。
「頭を空っぽにして、自分をワクワクさせる方法をみつけよう」
――アウトリーチ活動で子どもたちに伝えていることは?
僕たちのプログラムは、小・中学生やブラスバンド部を対象にしたワークショップが中心です。始めた頃は「ジャズとは」「音楽とは」みたいな頭でっかちなプログラムを組んでいたのですが、だんだん「こんなことを伝えたいわけじゃないな」って、気持ちが変化していきました。今伝えていることは、シンプルに「頭を空っぽにして、自分をワクワクさせる方法をみつけよう」それだけ。これはストリートやニューオリンズでの経験から、今でも自分のテーマになっていることなのですが、違うバンドで演奏させてもらう時に大事なのは何も考えずに吹くこと。少しでも「(次はこんな風に吹こうかな)」と考えると、すぐに演奏から取り残されるんです。すごく練習してきた流ちょうなスピーチより、多少つかえながらでも相手の目を見て語りかける言葉の方が心に響くのと同じで、他人のフレーズをマネした演奏より、頭を空っぽにしてその時の素直な気持ちで表現する音の方が、バンド全体の音楽に溶け込めるし、聴く人の心にも入り込むことができるんです。
ワークショップの様子
子どもたちを“空っぽ”にさせるためのワークショッププログラムは「ワンツー、ワンツー」と声を出すシンプルなものです。人それぞれ好きなものと嫌いなものがあるように、リズムも自分にとって心地よいリズムがあります。「楽しい気持ちで」「怒った感じで」「ちょっと高いトーンで」と指示を出しながら、子どもたちにリズムを刻ませる。最初は戸惑っている子どもたちも、繰り返していくうちにだんだん自分の気持ちに素直になってくる。そろそろ体の中が空っぽになってきたなと思ったら、今度は「自分の好きなリズムを探してみよう」と語りかけます。そうして心地よいリズムが見つかった時、すごく楽しくなって体が自然に動き出す。これをジャズでは“スイング”と言います。
スイングができるようになって、だんだん“ジャズの体”になってきたタイミングで僕たちの演奏を聴いてもらうんですけど「体育館の自由なところで、自由なポーズで聴いてみて」と伝えると、寝転んで聴く子、前に出てきて踊る子、いろいろな子が出てきます。中には「興味がない」と隅っこでじっとしている子もいるのですが、それも能動的な意思表示なので、僕たちにとっては「OK!」なんです。大事なのは、それまで集団だった子どもたちが、自分にとって心地よいリズムを見つけて本能のままにバラけていくこと。その瞬間に「おもろいやん!」と手ごたえを感じます。
――アウトリーチ活動で心掛けていることは?
アウトリーチ活動を始める時、先輩方の多くが「子どもたちにうそをついてはいけない」と教えてくれました。ただ演奏を聴いてもらうだけの芸術鑑賞会と違い、アウトリーチは子どもたちの体に一生残る体験になる可能性があります。その分、こちらも頭の中を空っぽにして“裸”で子どもたちと向き合わないと、子どもたちにはすぐに見抜かれますし、心も開いてもらえません。「うそをつくな」って当たり前のことに聞こえますが、その真意は「ありのままの自分をさらけ出せ」ということなんです。
最近は僕らも新たに登録されたアーティストにアドバイスする機会があるのですが、「自由にやったらええよ」と伝えています。空っぽになって力を抜いて、本能的に出る音じゃないと相手には響かないし、練習してきたことを聴かせるぐらいならやらない方がいいよって。ストリートやニューオリンズで経験してきた「一生懸命やる」「素直に、考えすぎずに」といったことがアウトリーチ活動を通して言語化できるようになってきたと感じています。
ワークショップの様子
BBBB結成30周年!
――2023年は結成30周年ですね。最後に、これまでとこれからについてお聞かせください。
30周年の“節目”を迎えましたけど、ここでBBBBの活動が終わるわけじゃないし、明日が楽しくなるための通過点の一つと考えています。もちろん、記念アルバムを出すとか、ファンの方に感謝の気持ちをお伝えする場を作るとか、いくつか考えていることもありますが、ゲストを呼んで大きなホールでライブをやるみたいな話には、メンバーもあまり乗ってこないですね。30年も活動していれば、無理して失敗したことなんていっぱい経験していますし(笑)、「30周年だから」という理由で頭でっかちなことを考えてもうまくいくわけがないんです。それよりも、まずは目の前のライブやアウトリーチに全力を注ぐ。その中で何かひらめくアイデアがあればやればいいし、何もなければしなくていい。その結果「(30周年らしいことを)何もせんかったね」ということになっても、それはそれでBBBBらしいかなと思ったりもします(笑)。
BLACK BOTTOM BRASS BAND
僕たちは決して演奏が上手だったわけでもなく、「プロになるぞ!」と壮大な夢を持っていたわけでもありません。音楽をキーワードに集まった、仲のいい友だちが“今”を楽しみながら続けてきたバンドなんです。メンバーの入れ替わりがありながらも、BBBBとして30年続けてこられたのは、人との出会いに恵まれたことと、その付き合いを楽しめたことが大きいですね。昔から、人と何かをやることが好きだったし、いろいろな人の考え方を吸収しながら「次は」「来年は」と冒険している感覚でここまで来ました。
ただ、ここ数年はコロナ禍の影響もあってか「先のことをあれこれ考えるより、今日、この場を大切にしよう」と考え方が変わってきたようにも思います。「今を楽しんだら次にどうなるかを試すゲーム」とでも言うのでしょうか。ゲームを続けた結果、自分が思っているような人間になれたり、自分の想像していなかったような音や音楽が自分の中から湧き出たり。BBBBとしても、これからもっと音から愛情があふれ出るようなバンドになるためには、体を空っぽにして、素の自分で今目の前にあることを楽しむだけかなと。そうしたら、見たことのない世界に自分たちも行けるんじゃないかと、これからの未来にワクワクしています。
Interview&Text/野田直樹(高速オフセット)
Photo/本人提供
Photo/本人提供
BLACK BOTTOM BRASS BAND(ブラック・ボトム・ブラス・バンド)
〈MEMBER〉
写真左から、IGGY(テナーサックス)、YUTA919(トランペット)、ANTON(ベースドラム)、TAMOTSU(スーザフォン)、SEIYA(スネアドラム)、YASSY(トロンボーン)
〈PROFILE〉
1993年/関西で結成。日本を代表するニューオリンズブラスバンド。トランペット・トロンボーン・テナーサックス・スーザフォン・スネアドラム・ベースドラムの6人編成。
1996年/ポニーキャニオンよりメジャーデビュー。
1997年/ニューオリンズにてライブ&レコーディングを行い、現地の新聞やラジオ等で大きく取り上げられる。以来、現在に至るまで幾度となく訪れ、親交を深めている。
1999年/活動拠点を東京へ 。全国各地でのライブツアー・イベント出演の他に、フジロック・ライジングサン・サマーソニック・釜山国際ロック・ダラムブラスフェス・台中ジャズフェスetc ~ 様々な国内外のフェスティバルに多数出演している。
また、JRAやユニクロのCM曲を担当するなど、TV、映画に多数の楽曲提供を行ったり、綾戸智恵・甲本ヒロト・東京スカパラダイスオーケストラ・トータス松本・BEGIN ・斉藤和義・m-fo・ハナレグミ・EGO-WRAPPIN'・MONGOL800 ・くるり・八代亜紀・日食なつこ・藤原聡(Official髭男dism) etc~ 様々なアーティストとコラボレーションを行なう等、活動の幅を広げている。
現在までに、アルバムを25枚発売。最新作は『激情』(2021年発売)。
音楽の楽しさをストレートに伝えるブラスワークショップや学校公演、アウトリーチは全国各地で大好評!
(一財)地域創造 登録アーティストとしても活躍中。
BBBB公式サイト