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【Tatsunoshin】 曲づくりは「感情の自給自足」


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アーティスト

UKハードコアレベールであるアメリカ「Justice Hardcore」に2020年、オーストラリア「OneSeventy」に2021年、ともに日本人として初めて加入。同年、ベルギー「Dirty Workz」の傘下であるレーベル「Electric Fox」から、アジア圏かつ未成年としても初のリリースを成し遂げたTatsunoshinさん。海外アーティストとのコラボレーションも活発に行うなど、若くして世界的に活躍する音楽プロデューサーの素顔に迫ります。(全2ページ)

ページ内目次


INTERVIEW1.

ゲームが好きで、小学生の頃からサウンドクリエイターになりたかった

――現時点でまだ20歳とは思えないご活躍ぶりですが、音楽に興味をもたれたきっかけは?

Tatsunoshin:もともと絶対音感があったみたいで、幼い頃、テレビで聴いた曲を自宅にあったオモチャのキーボードで弾いていたんです。それを見た母が「この子には絶対音楽をさせたほうがいい」と思ったらしく、家族に音楽をやっている人間はいませんでしたが、3歳からピアノに通わされました。
――片鱗を感じるエピソードですね。ピアノを習うのは楽しかったですか?

Tatsunoshin:練習は嫌いでしたね。毎週通ってはいましたが、別にクラシックも好きじゃないし…。家ではJ-POPやゲームの曲の耳コピばかりしていました。小学生の頃からゲームがめちゃくちゃ好きだったので、そういうのをつくるサウンドクリエイターになりたかったんです。中学生では音ゲー(音楽ゲーム)にハマりました。
――ゲーム音楽から、音楽ゲームに

Tatsunoshin:ゲームセンターで音ゲーをして、家に帰ったらその曲を弾いて、ネット上へ「弾いてみた」動画をアップするようになりました。最初は聴いてくれる人がいることや、反響をもらえることが楽しかったです。

――将来は音楽の道へ進もうと?

Tatsunoshin:そうですね。中学校へ上がる頃、大阪音大にミュージッククリエーション専攻ができることを知って、ここなら自分のやりたいことができそうと、すでに決めていました。なので学校推薦がある音楽系の高校に進学しましたが…楽譜が読めないのはさすがにまずいなと(苦笑)。
――楽譜を読まずにどうやってピアノを練習していたんですか?

Tatsunoshin:先生が弾いてくれたものを覚える形でした。高校では音を聴いて楽譜に書く聴音もありましたが、弾けはするけど書けないし…。どうにか教えてもらって「そういうことか!」と理解できると、あとはポンポンとできるようになりました。
――ルールさえわかれば早かったんですね。「弾いてみた」から曲づくりへシフトしたのは?

Tatsunoshin:高2になり、電子ピアノ類を買い替えたタイミングで、きれいな音で録りたいなと、録音用のソフトを買いました。それを使って試しに曲をつくってみたら、めちゃくちゃ面白くて。ネットにも上げるようになりました。今でも最初につくった曲を残しています。クオリティは低いですが、「こんな曲をつくっていた人でも、こういう曲がつくれるようになるんだ」と希望になるかなと思って(笑)。

――成長の過程が見えるのも面白いですね

Tatsunoshin:そこからはバイトで給料が入ったら作曲に必要な機材を買って、曲をつくっての繰り返し。どうせ買うなら、変に妥協して安いものを何個もじゃなく、一生の資産みたいな気持ちで、そのとき買える一番いいものを選ぶようにしていました。それなら機材のせいにもできないので。たとえばNative Instruments のKomplete Kontrolというキーボードなら中田ヤスタカさんも使っているし、これで変な曲ができたら自分が悪いんだなと。

音楽ゲームのルーツを辿っていくうちに、UK /ハッピーハードコアへ

――曲づくりのノウハウはどうやって?

Tatsunoshin:全て独学です。好きな音ゲーのアーティスト・P*Lightさんを参考にしてつくったのが始まりで、最初は音ゲーっぽい曲しかつくっていなかったんですが、つくっている人たちのルーツを辿っていくうちに、クラブミュージックが好きになりました。海外のすごいDJやアーティストを知って、「かっこいい!これだ!」と。P*Lightさんが好きだと言っていたGammerやDarren Stylesを聴き始め、つくりたいのはこっちだなと、UKハードコア、ハッピーハードコアに流れていきました。
――クラブミュージックにもいろいろありますが

Tatsunoshin:そもそも音ゲーのベースはダンスミュージックで、アップテンポな曲が多く、ハウスみたいにBPM(1分間の拍数)120~130の曲は少ないんですよね。標準で150ぐらい。僕は170ぐらいの速めの音楽が好きなので、クラシックでも『トルコ行進曲』や『小犬のワルツ』を超高速で弾いていました。小さい頃は、音楽は速ければ速いほどかっこいい、というのが僕のなかであったんです。
――「弾いてみた」動画の速弾きもすごいですよね。ところで、何をもってUKハードコアとするのか、ハッピーハードコアとはどう違うのでしょうか

Tatsunoshin:知らない人に伝える場合、〈4つ打ちの速いEDM(Electronic Dance Music)〉と答える人が多いと思います。キックがこうで、ベースがこうで、リードがこうで…って言いだしたら、かなりマニアックな話になるので。僕自身は、UKハードコアもハッピーハードコアも同じというスタンスでやっています。どちらもイギリスで生まれたものですから。そういえばBPMを160~165にすると、みんなハッピーハードって言うんです。「Electric Fox」がそう言い始めたからなんでしょうけど。170ならハッピーハードコア、150でキックが歪んでいたらハードスタイルみたいに、EDMのジャンルはBPMで決まるのかもしれません。

――リリースはどのように進められたのですか?

Tatsunoshin:SoundCloudに曲を上げ、海外のプロデューサーに聴いてくれとDMを送ったんです。とはいえ英語が全然できなかったので、翻訳変換してどうにか。最初はかなり厳しいことを言われました。
――いきなり海外に?

Tatsunoshin:海外のハードコアって、日本のハードコアと全然違うんです。日本は音ゲー用につくられたものが多くて、ロー(低音域)がそんな出ていなくてもゲーセンのスピーカーだと気にならないんですが、海外はボトム(土台)がしっかりしていて、鳴り方が締まってる。あとはドロップと言われるサビの勢いとか、リバーブ感も全然違います。それをつくりたくて、どうやるのかDMできいてみたり。そうやって、どうにか本格的なUKハードコアがつくれるようになったタイミングで「Justice Hardcore」というレーベルに送ってみたら、すごく気に入ってもらえて、高3の終わり頃から何枚かリリースしました。
――トントン拍子ですね!

Tatsunoshin:「OneSeventy」でも出したくて送っていたんですが、これが面白いぐらい受からない(苦笑)。レーベルを主宰しているJTSにも、「曲はいいけど、耳が痛い」とか「これはクラブでは流せない」とか散々言われて。今でこそ一緒に曲をつくる仲ですが、言われて直して送って「いや違う」の繰り返し。海外はミックスダウン系が本当に厳しいんですよ。

P*Lightさんと初対面。「ついに神様に会えた!」

――なぜ「OneSeventy」からリリースしたかったんですか?

Tatsunoshin:すべてにおいてクオリティがとても高いからです。Beatport(世界最大の音楽カタログの一つ)に出したらすぐ1位になるレベル。ハッピーハードなら「OneSeventy」と「Electric Fox」が最高峰だと思います。大学に入った頃にはある程度曲のクオリティが上がっていたので、日本の同人のレーベルからも声がかかるようになりました。好きで買っていた「MEGAREX」からも、コンピに入れたいから提供してくださいと言われてうれしかったです。

――国内でも注目されていったんですね

Tatsunoshin:状況が一気に変わったのは、大学1年の冬休み明け。ちょうど体育の授業終わりにアップルウォッチを見たら、「OneSeventy」からのメールが届いていて、いつもと違う文面だなと確認したら、やっと受かっていたんです。日本人でもハードコア好きなら誰もが知っているレーベルなので、リリースが決まったときはすごく反響がありましたし、「OneSeventy」側の僕の見方も一変して。デモの送り先がわからなかった「Electric Fox」の窓口も教えてもらい、送ってみたら2回目で気に入ってもらえました。リリース決定の告知ツイートもすごく反応が良くて、やはりすごいレーベルだなと。
――これまでも“日本人初”続きだったのが、アジア圏でも未成年でも初の快挙でしたね

Tatsunoshin:その後、両レーベルからコンスタントにリリースすると、「今、Tatsunoshinくん、ヤバいよね」みたいに言ってもらえるようになって。P*Lightさんとか音ゲーの売れっ子アーティストが大勢所属している、同人サークル兼レーベルの「HARDCORE TANO*C」からも声がかかり、「やっと来た!」という感じでした。僕の原点ですからね。初めてクラブに行ったのが、高2の5月にあった「HARDCORE TANO*C」のツアーで、今年の5月には一緒に回らせてもらい、やり遂げた感がありました。P*Lightさんと初めてお会いしたときは、「ついに神様に会えた!」って感じで(笑)。今では、いろいろお話したり、一緒にごはんを食べたり、仲良くさせてもらっています。

大阪音楽大学へは、人脈を広げる交流の場としても来たかった

――わずかな期間で、ものすごく世界が広がっていますね

Tatsunoshin:大学もそういう面があって。僕にとって勉強する場所ではあるけど、人脈を広げる交流の場として来たかったという思いも強く、ヒューマンビートボクサー集団・SARUKANIのSO-SOさんやKohey、PIKASONIC、いろんな人たちと仲良くなりました。彼らと一緒に曲をつくったり、イベントを計画したり、面白い展開もあって。
――行動力がすごいですね!

Tatsunoshin:思いついた瞬間、すぐ動くんですよ。これやったら面白いだろうと思ったら、誰かに連絡して、やってみる。自分で楽しみをいっぱいつくっておけば、形になったときに気持ちいいかなと。

――『Chrono Circle』(音楽ゲーム)への楽曲提供はどういう経緯で?

Tatsunoshin:それこそ最初はPIKASONICに話が来たんですが、「音ゲーつくったことないから手伝って」と言われて「いいよ」と。ネット上のアーティストでも、ある程度知名度が伸びてきたらどこの企業も聴いているらしくて、僕も2年前ぐらいの曲からチェックされていて、「あの頃から聴いてたけど、やっと声をかけようという話になった」って依頼が来たり。

――企業案件もどんどん手がけていますよね。au(KDDI)が新成人パフォーマーとコラボして、リレー形式で動画を投稿していく「#ハタチが未来をつなぐぞ」企画では、楽曲制作も担当されていました

Tatsunoshin:あれは大学から教えてもらって、何人か応募したなかから選ばれました。街頭ビジョンとか鉄道の車内ビジョンとかに映っていたよってツイートもいくつかありました。

SPECIAL1. ミニQ&A

インタビューとは別で、半分オフレコのような5つの質問をしてみました。
Q. 憧れの海外フェスは?
A. 見たいのはベルギーの『Reverze』とか、オランダの『Qlimax』とか。どちらもハードスタイルのフェスで、会場のサイズ、演出、とにかく全部がすごくて。出られるなら出たいけど、まずは単純に海外のバイブスを感じたいです。
Q. 注目している日本のアーティストは?
A.シティポップ系のシンガーソングライター・ゆいにしお。ドラマの主題歌もやっていて、Spotifyの勢いもすごいので、これから伸びるだろうなと。
Q. 息抜きでやっていることは?
A. 大学に来る時間が息抜きになっているかも。「音楽形式学」など、曲づくりに直接関係のない授業を受けるのも面白いです。
Q. いま一番欲しい機材は?
A. 大学のスタジオにもあるGENELECのスピーカー。このメーカーは最高です!
Q. 大学でしてみたいことは?
A. スタジオはよく使わせてもらっているし、みんなに会うのは楽しいし…今のまま過ごせたら充分です(笑)。